成年後見制度の利用全般
- 成年後見制度は、本人の財産・収入が少ない場合や近親者がいる場合には、正直言って利用する必要がないと思うのですが・・・
- いいえ、決してそんなことはありません。成年後見制度は、「財産管理」のみならず、「身上監護」も大きな柱の一つですので、生活保護の受給者の方や年金の少ない方にとっても、自分らしく生活するための支援として、成年後見制度を利用することには意義があります。
また、近親者の方などがいる場合でも、後見人はその近親者の方などと連携しながら役割分担をしてご本人を支援していくことにより、ご本人がより自分らしい生活を送ることができます。
- 同居の親族として、実質的に高齢者である親の財産管理をしており、現状では日常生活の上で特に支障はありません。それでも成年後見制度を利用するメリットはあるのですか?
- 成年後見制度を利用すると、家庭裁判所の監督を受けることになります。裁判所への管理報告のため、日常的な金銭管理内容の記録(例:預金・現金出納)などを中心に事務作業の負担を背負うことにはなりますが、反面、自分の財産と混在させてしまうなど、お手盛りになりがちな自らの財産管理内容について客観視できる環境に身を置くことは、自分自身にとっても大切なことであり、また対外的(他の別居親族や近隣住民など)にも誤解を与えないなどのメリットとなります。
後日、第三者から、仮にあらぬ疑いを持たれたとしても、裁判所から選任された公的な法定代理人の立場であることから、その財産管理の内容について、堂々と説明することができます。
- 親族がいる場合、後見人には必ず親族がなる必要がありますか?
- いいえ、必ずしも親族が後見人になる必要はありません。たとえ本人が希望をしても、親族間で金銭面も含めた利害の対立や意見の食い違いがある場合など、公平性の観点から親族が後見人になることが相応しくないと裁判所が判断するケースもあります。また、特定の親族が後見人になることが、他の親族に比べて重荷になる場合もあり、そのような場合には、司法書士などの専門家に後見人候補者としてご依頼されるのも一つの方法です。
- 後見人等は、本人の身元引受人にはなれるのですか?また、本人の病院受診時の同行などをはじめ、実際の生活の中でどこまで関わってもらえるのでしょうか?
- 後見人は、一般的に、以下の行為はできないものと解されています。
・身元引受
・事実行為(例:現実の介護行為など)
・医療行為の同意
よって、介護サービスや医療サービスなどの多岐に渡る様々な社会保障サービスを活用して、福祉・医療専門職種らと連携しながら支援体制を構築しています。
但し、実際の支援の現場では、それらのサービスの活用自体も困難な場合においては、ご本人の生活面でのニーズやご希望を汲み取って、病院の受診同行(送迎などの事実行為も含む)支援などを例外的に担っている場合もあるのが実情です。
申立手続について
- 成年後見制度を利用するための家庭裁判所への申立は、専門家でなければできないのでしょうか?
- いいえ、一般の方でも可能です。4親等以内のご親族が申立人になることができますが、家庭裁判所の窓口において必要書類等が封入された「申立セット」の交付を受けることができます。
もちろん、リーガルサポート奈良支部所属の司法書士がそれらの書類作成を支援することも可能です。
- 後見人の候補者がいない場合でも申立はできますか?
- はい、申立できます。
後見申立書には、後見人候補者を記載する欄があり、後見人への就任を希望する当事者(申立人も含む)を候補者として記載して裁判所に申立できます。
ただし、候補者に相応しい親族がいない場合やご依頼できる専門家がいない場合には、候補者欄を空欄で申立することも可能であり、裁判所は個々のケースに応じて、第三者後見人として司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門家を選任します。
- 後見申立に親族が反対している場合でも申立はできますか?
- はい、申立できます。
後見申立書には、一定の範囲の親族の同意書を添付する取扱いですが、申立自体に反対している親族がいる場合は、当然その同意書を添付することはできません。ただ、同意書の添付がない場合でも、その他の基本的な添付書類が概ね揃っている場合には、裁判所は後見申立を受理し、その後は裁判所より、同意書の提出がない親族に対して意向を尋ねる文書が送られます。
手続費用等について
- 成年後見制度を利用する場合は、最初にどれくらいの費用がかかりますか?
-
主な実費は以下のとおりです。なお、いずれの場合でも、司法書士が支援する場合の書類作成費用(報酬)などは、個別の司法書士ごとに異なります。
【1. 裁判所への申立が必要な法定後見の場合】収入印紙 (申立手数料)800円〜2,400円
(登記手数料)2,600円郵便切手 4,000円分
(内訳)500円4枚、100円6枚、80円15枚、10円20枚鑑定費用 5〜10万円程度(鑑定が必要な場合のみ)
※鑑定については後述参照各種書類取り寄せ費用(戸籍・不動産登記事項証明書など) ※上記費用は、いずれも奈良家庭裁判所管轄【2. 契約による任意後見の場合】公証手数料 約5万〜10万円程度 ※注1・注2 各種書類取り寄せ費用(同上) - ※注1 管理対象財産の価額によって異なります。
- ※注2 遺言作成や財産管理契約・見守り契約などの締結があればさらに追加となります。
- 法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助は、成年後見制度の利用に際して活用することはできますか? その場合には、どれ位の金額が立て替えられますか?
- はい、できます。司法書士が、裁判所に提出する書類の作成をする場合には、『書類作成援助』を利用することにより、いったん司法書士に報酬と実費全額が支払われ、その後、利用者の方(申立人)が分割償還(月額支払額は資力による。月数千円程度でもOK)をしていく仕組みです。
立て替えられる金額は以下のとおりですが、利用者の方に一定の所得制限がありますので、ご利用に際してはご注意下さい。合計 57,000円〜78,000円 内訳 実費 15,000円 報酬 42,000円〜63,000円 ※上記とは別途、鑑定費用も立替支出の対象です(参考URL)法テラス 民事法律扶助
後見人の報酬について
- 成年後見制度を利用した後は、毎月どれくらいの費用(報酬)がかかりますか?
また、それは誰が負担するのですか? - 基本的には、支援を受けることになる当事者(ご本人)が負担します。金額については次のとおりです。
【1. 裁判所への申立による法定後見の場合】
家庭裁判所では、一定の基準を定めていますが、月額管理費用は原則2万円です(但し、ご本人の財産の範囲や収入によって増減します)。
具体的金額については、後見人の業務内容も踏まえて、ご本人や後見人ではなく裁判所が決定します。【2. 契約による任意後見の場合】ご本人と後見人が合意をして契約で定めた金額となります。
- 後見人の報酬は、親族の後見人であっても請求できますか?
- はい、第三者の専門職後見人と同様に、裁判所に「報酬付与の申立」をすることによって、裁判所が決定した金額の報酬をもらえます。
親族後見人は他の親族と比べて、後見人として財産管理や身上監護に関する様々な義務や負担を背負い、また後見人としての法的責任を負うべき立場にあるためです。
ただ、報酬額自体は、支援されるご本人(被後見人等)の収入・財産の額や後見事務の労力など個々の事案に応じて裁判所が職権で決定しますので、後見人が自ら報酬の額について裁判所に希望したり請求することはできません。
- 「公益信託 成年後見助成基金」はどういうものですか?また、どういう時に使えるのですか?
- ご本人の収入や財産が少ない場合でも成年後見制度を利用できるように、リーガルサポートが中心となって設立した基金で、後見人(親族以外の個人に限定)へ支払う報酬が助成されます。
助成金額は、原則月1万円(上限2万円)で、最長5年間のみの助成です。基金の助成を希望する後見人等が毎年4月に申請をして、審査を踏まえて8月頃に助成決定がでます。
法定後見(総論)
- 遺産分割手続や保険金の請求、施設への入所手続といった、本人のために必要な特別な手続が終わった後は、後見人を続けてもらう理由がありません。
報酬の支払いなどもったいないので、途中で後見人に辞めてほしいのですが・・・ - 後見人は、家庭裁判所でいったん選任された場合には、裁判所の許可を得て辞任したりする一定の場合を除いて、特別な業務が終わった事だけを理由として当然には辞めてもらうことはできません。
原則的には、ご本人がご健在の間は、後見人として生活支援を続けることになります。
- 私は本人のいとこですが、遠縁でもあり、本人とはこれまで疎遠な間柄でした。
本人の生活支援のために後見申立の手続を裁判所にする上で、私しか親族がいないのですが、これまでの生活背景等から裁判所の手続には協力する意思がありません。このような場合には、本人は成年後見制度を利用する余地はないのでしょうか? - いとこは四親等内の親族なので、裁判所にする後見等申立の申立人になることはできますが、諸事情により裁判所の申立手続にご協力が難しい場合には、本人の住所地(もしくは居所)である自治体の「地域包括支援センター」を通じて協力を得ることにより、成年後見制度の利用が可能な場合があります。【※後述参照】
「地域包括支援センター」では、保健師や社会福祉士、主任ケアマネ−ジャーなどが中心となって、介護予防に関するマネジメントや高齢者等への総合的な支援を行っており、司法書士などの専門職とも連携していますので、最寄りの同センターにご相談下さい。
- 「成年後見制度利用支援事業」とはどういうものですか?
- 判断能力が十分ではない高齢者の方々や障がい者の方々の財産管理や介護サービス契約等について、後見人等の援助を受けられるよう、本人に代わって自治体(市町村)が家庭裁判所に後見人等選任のため、申立ての手続きを行います(後見等審判請求)。
また、費用の負担をすることが困難と認められる方に対して、審判の請求に必要な費用や後見人等への報酬の助成を行う制度です(但し、予算措置のある一部の自治体のみ)。
奈良県においても、平成24年度より県の委託事業として「成年後見制度推進事業」が開始されており、今後、県や奈良県下の多数の地方自治体(市町村)において、地域で身近に成年後見制度を活用できる体制の整備が進んでいます。
法定後見(各論)
- 後見人は、本人が亡くなった場合、葬儀や納骨をはじめとしたいわゆる「死後事務」についてどこまで対応してもらえるのですか?
- 後見は、本人の死亡によって終了しますが、一定の期間については、後見人としての緊急事務管理の一貫として、その権限が事実上存続します。
よって、相続人や近親者の関与していただける場合も含めて、実際の支援の現場においては、以下に列挙する死後事務について後見人が(親族の有無等により)その全部もしくは一部を担っているのが実情です。- ・菩提寺・親族等関係者への連絡
- ・通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬、永代供養の諸手続
- ・医療費、老人ホーム等の施設利用料その他一切の債務の弁済
- ・家財道具や生活用品の処分に関する事務
- ・行政官庁等への諸届け事務(例:戸籍法に基づく死亡届)
- 成年後見人に選任されている親族のものです。身内に不幸ごとがあり、葬儀に対して香典などを出す場合、どのような基準で対応すればよいのでしょうか。
- 香典等の交際費は、ご親族ごとにかなりその金額の基準に差があるものです。
ご親族の基準ではなく、社会通念上一般的な金額によるべきと思われますが、事前に家庭裁判所に相談されるのがよいでしょう。
- 後見事務を行う上で、「後見事務費」とは何でしょうか?また、この後見事務費して考えて良いものはどういうものでしょうか?これは、後見人の判断で独自に受領してもいいのでしょうか?
- 「後見事務費」とは、日常の後見業務において、本人のために使用する経費のことをいいます。
具体的には、郵送のための切手代や、定期面談等の際の交通費(電車料金、車で移動する場合のガソリン代など)、通信費(施設や病院などとの電話連絡の際の電話やFAX通信など)などが該当します。
なお、交通費については、公共交通機関利用時の経費(或いは車での移動の際には距離など)を計算し、事前に家庭裁判所にその旨を報告しておき、きちんと使用額がわかるように受領するよう心がけておくのが望ましいでしょう。
- 保佐人や補助人(×成年後見人)が選任された場合には、金融機関のキャッシュカードの取扱いはどうなるのですか。
- 銀行に保佐人等選任の届出(成年後見制度利用届)をすることによって、キャッシュカードでの取引は停止されることになると思われます。
原則的には、キャッシュカードは金融機関が回収する場合が多いですが、金融機関によって取扱いも異なりますので、詳しくは管理口座のある各金融機関にお問い合わせください。
任意後見
- 任意後見契約はどのような点が良いのですか?
- 任意後見契約の良い点は、自分がまだしっかりしているうちに、自分の信頼できる人を任意後見人に選ぶことができる点です。
また、任意後見人に支援してもらう個別の具体的内容を、任意後見契約によって自分で事前に取り決めることができる点も挙げられます。
さらに、契約は公正証書で行われ登記もされることから、任意後見契約の存在を公的に証明できる点や、任意後見人に対して、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、公的な監督が付くことによりチェック機能が働くなどの安心感があるところも良い点と言えると思います。
- 任意後見契約のデメリットはどんな点ですか?
- 任意後見人が行う事務の対象は、「生活、療養看護又は財産の管理に関する法律行為」となります。
その点から言えば、任意後見人は法定後見人と異なり、本人が行った法律行為を取り消すことができません。
任意後見人には、取消権や同意権が無い点はデメリットに挙げられると思います。
また、任意後見契約は、将来的に判断能力が衰えてから様々な支援を開始する契約であるため、「今すぐに支援を開始してほしい」場合には、別途、財産管理委任契約や見守り契約を締結する必要があります。【※後述参照】
- 任意後見制度の利用を考えていますが、まず何を準備する必要がありますか?
- 任意後見制度の利用をお考えの場合に、まず準備いただきたい点は、
@「誰に」任意後見人をお願いするのか?
A任意後見人に「何を」お願いするのか?
この2点になります。
特に、Aについては、ご自身のこれからのライフプラン【※後述参照】を十分にご検討していただく必要があります。例えば、判断能力が衰えてきたときに、自宅を処分して何々という施設に入りたいとか、治療はどこの病院を指定する、など自分の希望するライフプランを事前に決めて、任意後見人に伝えておく必要があります。
- 任意後見契約は、認知症など将来の判断能力の低下に備えた契約だそうですが、いま現在、元気なうちから色々な支援を希望しています。その場合には、どうしたらいいのでしょうか?
- 任意後見契約の締結と併せて、個別に「財産管理委任契約」や「見守り契約」といった契約を付随的に締結することにより、まさに“いま”からの支援が可能となります(詳細は、任意後見契約のページをご覧下さい)。
- 「将来はこの施設に入りたい」、「亡くなった時にこの親族には連絡しないで欲しい」、「自分の葬式はこうして欲しい」といった将来に向けた自分の希望は様々ありますが、財産のことだけではなく、日常生活に大きく関わるこのような希望についても、いま元気な間にきちんと聞いておいて欲しいのですが・・・
- リーガルサポートでは、任意後見契約を締結するにあたっては、「ライフプラン」を作成しています。これは、財産管理に関係することだけではなく、身上監護や死後の葬祭事務なども含めて、ご本人の様々なご要望をお元気な間に記録しておくことにより、ご本人が心から希望することを契約締結した任意後見人が実現するためのものですのでご安心下さい。
- 任意後見契約はどこで作ることができますか?
- 任意後見契約は、公証人によって作成される公正証書によって締結しなければなりません。任意後見契約の締結は、公証人が原則的に公証役場で立ち会い(但しご本人の自宅や施設への出張も可)、本人の意思や代理権の範囲などを確認して行います。
任意後見契約が締結されたら、公証人によって、その契約の当事者と代理権の範囲が登記されます(嘱託による登記)。
任意後見契約の締結のための準備は、契約書の原案作成もさることながら、公証人との細部に渡る事前打合せなども含めて煩雑ですので、司法書士などの専門家に契約書等の作成を依頼していただくことも可能です。
- 任意後見が必要となった場合に、任意後見監督人が家庭裁判所から選任されるとのことですが、その場合には費用はかかるのでしょうか。
- 基本的に、任意後見監督人の報酬は支援を受けることになるご本人が負担します。金額については、ご本人や任意後見監督人ではなく、家庭裁判所がご本人の財産の範囲や任意後見人監督人の業務内容も踏まえて、一定の基準を定めて決定しています。