任意後見制度とは

任意後見制度

任意後見制度は、現在、判断能力に問題のない元気な人(以下「本人」といいます。)が、将来判断能力が衰えたときに備えて、「誰に」「どのようなことを支援してもらうのか」についてあらかじめ自分の判断で決めておき、実際に判断能力が衰えたときに、自分で選んだ人が「任意後見人」となり、自分の意思を実現してくれる制度です。

任意後見制度と法定後見制度の違い

法定後見制度は、現在すでに判断能力が不十分な人を支援する制度ですが、任意後見制度は、現在は判断能力に問題なく元気だが、将来自分の判断能力が衰えたときに備えて、自分の生活設計を決めておき、これを実現してくれる人を決めておく制度です。
法定後見制度において、支援する人(成年後見人、保佐人、補助人)を誰にするかは家庭裁判所が決めるのに対し、任意後見制度においては、本人自らが誰に支援してもらうかをあらかじめ決めることができます。
また、法定後見制度において、成年後見人等の権限や職務の範囲が法律や家庭裁判所によって定められることと比較すると、任意後見制度においては、「自分で」「自分を支援してくれる人と支援を希望する内容を決める」ことができる点で、より自分らしく生きることができる制度であると言えます。

任意後見契約の締結

任意後見制度は、本人と本人が選んだ任意後見人の受任者(以下、「受任者」といいます。)との「契約」によって成立します。これを『 任意後見契約 』といいます。この契約において、本人が受任者に将来何を支援してもらうか、その事務や権限の範囲について取り決めます。
この任意後見の契約書は、公証人によって作成される公正証書によってしなければなりません。これは、任意後見契約が受任者に様々な権限を与えることを目的としていますので、委任する本人の意思を確認するため、また、契約の内容が法律に従ったものにするためです。
任意後見契約書を作成した後、公証人は法務局に任意後見契約の登記を嘱託します。法務局では、任意後見契約ごとに、公正証書を作成した公証人の氏名や証書の番号とともに、本人と受任者が誰であるか、受任者の代理権にはどんなものがあるかについて登記をします(登記事項証明書の発行)。

任意後見契約の発効

任意後見契約を締結しても、直ちに任意後見契約が発効(=効力が生じる)し任意後見事務が開始するわけではありません。本人や親族等の申立により家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから任意後見契約が発効します。
任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約のとおりに事務を行っているかどうかを本人に代わって監督(チェック)します。

任意後見契約のプラン

このように通常、任意後見契約の“締結”と任意後見契約の“発効”には時間的な乖離があるため、受任者にとって契約後本人との接触がなくなってしまうと、本人の心身の状態や判断能力の低下の程度などを適切に把握することが困難となり、本人の保護のために適切な時期に任意後見契約を発効させるタイミングを失ってしまう恐れがあります。
そこで、本人と受任者との間に一定の関係を継続し、任意後見契約の発効の時期を逸しないように、任意後見契約が発効するまでの間、見守り契約や財産管理委任契約等を結んでおくとよいでしょう。これらの契約を、任意後見契約と付随的にセットで締結することにより、元気な“今”からでも様々な支援を受けることが可能となります。
では、任意後見契約が発効するまでの間、受任者とどのような契約を結べばよいのか、以下に代表的な任意後見プランの類型を例示します。本人の希望や判断能力の程度によってどのようなプランがよいのか、受任者に相談しながら本人が決定していきます。

任意後見プラン

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見守り契約
任意後見契約が発効するまでの間、本人と受任者が定期的に連絡をとったり実際に面談をしたりして、受任者が本人の健康や生活の状態に変化がないか「見守る」契約を一般に『見守り契約』といいます。『見守り契約』においては定期的な連絡・面談の方法・回数や報酬などを具体的に記載します。
このように定期的な連絡をとることで、受任者が将来本人に代わって財産管理事務や任意後見事務を行なうときに備えて、お互いのコミュニケーションを深めて信頼関係を築き、本人がどういう生き方を望んでいるのか理解を深めていくとともに、受任者が任意後見契約を発効させる時期をより的確にとらえるようにすることがこの契約の目的です。

財産管理委任契約
本人の判断能力に衰えはないものの、高齢や病気などにより本人の心身の状態が不安になったとき、任意後見契約が発効するまでの間、日常的な金銭管理や万一の入院等の医療契約など、任意後見事務の一部を受任者に委任する『財産管理委任契約』を結びます。
財産管理等の代理権を受任者に与えるため、「任意代理契約」とも呼ばれます。本人の判断能力に衰えはないため、受任者に委任する事務は任意後見契約で定めた事務の一部(生活、療養看護及び財産の管理に関する事務)に限られます【※注1】。
任意後見契約は、実際に本人の判断能力が衰えてから効力を生じるので、本人の判断能力が正常な間は利用することができません。また身体的な障がいだけでは受任者に任意後見事務を開始してもらえないというデメリットがあります。財産管理委任契約は、このように判断能力が衰える前から本人の財産管理等を受任者に支援してもらいたい場合に利用できる契約です。

【※注1】財産管理委任契約の委任事務の具体例
1.日常業務

(1)  ○○さんの生活状況の確認のための面談

(2)  管理対象財産の保全・管理(処分は除く。)

(3)  管理対象財産に含まれる預貯金に関する払い戻し、預け入れ

(4)  定期的な収入(家賃・地代・年金・障がい手当金その他の社会保障給付金等)の受領及びこれに関する諸手続

(5)  定期的な支出を要する費用(施設利用料・公共料金・保険・税金等)の支払及びこれに関する諸手続

(6)  証書等の保管

(7)  ○○さんの指示に基づく金員の支払

(8)  判断能力が不十分になった場合、任意後見監督人が選任されるまでの間に応急的に必要となる法律行為に関する一切の件

(9)  法律行為の助言

(10)  その他前各号に関連する一切の事項

2.身上監護業務

(1)  介護・福祉サービス利用契約の締結、変更及び解除

(2)  入院・退院手続き

(3)  医療契約の締結

以 上



死後事務委任契約
任意後見契約においては、本人が亡くなった後の財産管理の計算、相続人等への財産引渡しの事務などは死後事務として任意後見人が行いますが、葬儀、埋葬、官庁への諸届け等の諸各種手続は任意後見契約の代理権目録には記載することができず、任意後見人の事務の範囲外になります。
これらの事務を任意後見人等にやってもらいたいときは、任意後見契約とは別に『 死後事務委任契約 』を締結することになります。
死後事務委任契約においては、任意後見人等にやってもらう死後事務の範囲と報酬等について取り決めをします【※注2】。

【※注2】死後事務委任契約の委任事務の具体例

(1)  菩提寺・親族等関係者への連絡事務

(2)  通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬、永代供養に関する事務

(3)  医療費、老人ホーム等の施設利用料その他一切の債務弁済事務

(4)  家財道具や生活用品の処分に関する事務

(5)  行政官庁等への諸届け事務

(6)  別途締結した「継続的見守り契約および財産管理等委任契約」における委任事務や別途締結した「任意後見契約」における後見事務の未処理事務

(7)  相続財産管理人の選任申立手続

(8)  以上の各事務に関する費用の支払い

以 上



任意後見契約の終了

任意後見契約は、任意後見人の解任、契約の解除、本人について法定後見が開始(後見・保佐・補助開始の審判を受けたとき)したときに終了します。また、本人の死亡、任意後見人の死亡等によっても終了します。